思い込みの力学篇

ラジオからこんなニュースを聞いた。あるお父さんが自分の娘から
メールを受けた。「今からバスに乗ります。バスジャックされたら連絡
するね」これを見たお父さんはびっくりして警察に通報してしまった。
お父さんは娘の乗ったバスがジャックされたと勘違いしたのだ。2000年
のゴールデンウィークにバスジャックの事件があった。娘は事件と結び
つけ冗談めかしてメールを送りお父さんはその事件が先入観として頭
にあったので早とちりしてしまったのだろう。
今回はこのような思い込みから生じる現象について考察してみよう。
筆者のように東大医学部脳神経学科卒の頭脳を持ってしてもこのよう
な思い込みから起こるまぬけな事態は多々ある。では、先頃ウィーンで
開かれた「世界脳神経学会」にて発表された貴重な症例を紹介しよう。
日本の杉並区阿佐ヶ谷のパール商店街というところで起こった事例だ。
青年Aさん(34)は商店街を歩いていると「職安」と書かれた張り紙を
発見した。Aさんは阿佐ヶ谷という地域にも職安があるのかと、納得
して通り過ぎた。しかし「職安」はあちこちに点在することの発見に
及んで自分の異変に気付いた。「はて、職安とは阿佐ヶ谷には無かっ
たはず」。無いものがある、と書かれている。しかも頻繁に。そのとき
(現在も)Aさんは無職であった。実はそれは職安ではなく「激安」で
あったのだ。Aさんはこのとき自分の中に「神」を感じたという。
どーゆーことかというと、思い込んでいる時はそれは彼にとって真実
である、ということだ。つまり、神(真実)とは自分の中にあり神は自分
に作用し、また自分は神に影響を与えてる、と。Aさんは深遠な洞察力
を持っているのでこの結論に容易に行き当たったが普通の人間だと
精神崩壊を起こす危険な事態であったろう。
Aさんは現在も自分は深遠な洞察力を持っていると思い込み、静かに
暮らしている。らしい。
次の症例は日本の杉並区阿佐谷南に在住のAさん(34)が二十歳の
頃の大事件だ。Aさんは日本の漫画家水木しげる氏の『ゲゲゲの鬼太
郎』とゆー漫画の中の登場人物(妖怪)である「一反もめん」をこよな
く愛していた。別の呼び名で。
彼は「一反もめん」を「一反もんめ」だと思い込んでいたのだ。幼少
の頃よりテレビにかじりつき、原作の単行本も全部揃えているのにも
かかわらず、である。彼は「一反もんめ」の「もんめ」という言葉に
訳の解らぬ怪しい雰囲気と語感に限りなく神秘的な妖怪を感じていた
のだ。ところが、彼が二十歳のときそれは崩壊した。誰かが発した
「鬼太郎の一反もめんみてぇだな」。彼は激しく動揺した。
「何?一反もめん?もめん?もめん?」彼は一瞬頭脳に混乱をきたし
たが、すぐ、ことの意味を理解した。彼も深遠な洞察力を持っていた
のだ。一反の木綿、だから「一反もめん」か。そうか、そうだったの
か。この瞬間、彼の「一反もんめ」信仰は終った。
引き続き貴重な症例を見ていこう。日本の杉並区にAさんという青年
(34)がいる。彼は新聞などで「ノウハウ」という言葉を見るたびに
「ウハウハ」と一瞬読んでしまう。
東京都杉並区在住のAさん(34)はテレビなどから「レバノン情勢」の
「レバノン」と聞くと「はぁ〜レバノンノン♪」と必ず歌わずにはいられ
ない。
杉並区のAさん(34)はディズニー映画の『ポカホンタス』の看板を見て
1ヶ月の間「どんなダンスなんだろう、『ポカポカダンス』って」と思
い込んでいた。
上記の3例は世界的に見ても貴重かつ重要な症例に他ならない。
イギリスの王立国際医学アカデミーではこれらの症例から予測される
人類の行く末に頭を痛めている。
しかし思い込みとは、時に常識では考えられない程のパワーを生み出し
時には劇的な変革(プラスでもマイナスでも)をその人自身にもたらす。
なぜなら、思い込んでるその人にとってはその思い込みこそが真実で
あり紛れも無い現実なのだから。